ゾウの風

画廊で個展をするのは8年ぶりになります。

今度の展覧会のタイトルは「ゾウの風」

 2014年私は突然病気になり、一か月間目が見えなくなりました。視力が戻っても見える世界は、青いセロハンをかざして見るような青い世界が1年間続き、多くの色彩を失うかたちとなりました。目が見えなくても色彩を認識できなくても、今その時描ける絵を描いてきました。見えなくなって耳が敏感になりました。音にも流れや方向があること、線になることを知りました。柔らかい花びら、角が痛い葉、空気の匂い、五感で感じるものは体を通して全て線になりました。心や体で感じたことは、風が吹くように体の中を通り抜けます。私は心に意識を傾け、その動きに正直に筆を動かそうと試みます。絶えず動きを変えながら、体の中に吹く風を感じ、追うように描きます。

 目が見えない間、不思議なくらい心が穏やかで、絵が描ける喜びがありました。今思うと、「ゾウの風」が吹いたのかもしれません。ゆったりと歩いて、それは案外早く、大きくて温かくて時折のぞかせる恐さと安らぎをもつ。そんなゾウの風が吹いたのだと思います。

 私の絵は線です。心に確かに生じた線。線は自由でおもしろい。見る人の心に、自由な風を吹かせたい。手応えのあるいろんな風を、線を描きたい。私にとって線とは生きることです。 

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